時空省外伝!辻谷広行の休暇 4

 彼が心配するのも無理はない。何せ、この協会に与しているメンバーは一癖も二癖もあるのだ。またやかましいことになるのではないかと恐れている彼には頭痛の種だ。元の世界に帰ろうとしても、自由に帰ることもできないうえ、こちらの世界に来るときは【辻谷示現流道場】にお世話になっているため、ここから去ろうとすることも出来ず、悩むばかりである。

 辻谷「ん?どうしたスコール?」

スコールは苦笑いを浮かべながら何もないと述べると、辻谷はそのまま道場の中へと消えていった。

 スコール「やれやれ、この先いったいどうなるやら…。」

そう悩む彼に誰かが寄り添ってくる。どうやら青年であるようだ。特徴として、まずその巨大なバイオリンに目がいく。

 スコール「あなたは…【ハーメル】さん!!」

彼の言った通り、彼の名は【ハーメル】という。彼は、ぶっきらぼうにスコールに話しかける。

 ハーメル「どうした?また細かいことで悩んでいるのか?差し詰め、あいつらのことで悩んでんだろ。まぁ、これでも聞いて気持ちを落ち着けな。」

そういうと、彼は【チャイコフスキーの 弦楽セレナーデ エレジー】をバイオリンで奏で始める。非常に美しいメロディーにスコールの不安はすべて吹っ飛んでしまった。

 ハーメル「すっきりした顔になってるな。さて、そろそろ道場に戻るぞ。俺も、がきんちょどもが待ってるんでな。先行くぜ。」

 そうして、辻谷の後に、この二人が続いて道場の中に入る。

さて、ここで登場したハーメルという青年。彼は、こちらの世界の人間ではない。彼もまた、こちらの世界に来た異世界の住人だ。彼もこちらの世界に迷い込み、元の世界に帰れなくなってしまったため、辻谷家に居候しているのだ。

 辻谷道場までは、門から2・3分坂を上らねばならず、辻谷の後ろで二人は話を続けていた。

 スコール「あの…ハーメルさんはこちらに迷い込んで半月ほど経ちますが、どうですか【こちら】は…」

ハーメルは少し考えたあと、「少なくとも、平和な世界だな…」と答える。

 スコール「平和…ですか…。こちらの世界でも【戦争】が起こっているようですが…。」

 ハーメル「それでもだ…。世界を巻き込む戦いなんて、ここ何百年続いてんだろ。俺のいた世界に比べれば、はるかにましだ。」

 ハーメルは少し遠い目をしながら歩き続ける。スコールも、その言葉に納得した。この世界は、何百という国があるにもかかわらず、組織が破たんしていないからだ。