時空省外伝! 辻谷広行の休暇24

 ハーメル「うそ…あのおじさん強すぎ…」

暗くてよくわからないが、彼は両手で口を押え、驚きの表情をする。今までの苦労は何だったのか、おのれ自身に突っ込みたくなる程の強さだ。そんな彼を見た司馬仲達も同じように驚きを隠せずにいた。

 

 司馬懿「うむ、私の思っていた以上の豪の者よ。策など不要と思わせるほどのな。さて、このことを【曹丕】殿に知らせる必要があるな…」

 彼は、そのようなことを心の中で呟きながら、江田島のほうを見つめる。彼はその強さに圧倒されつつ、又、その姿が印象に残っていく。不思議なことに、彼以外も同じ感想を抱いている。その風体からはまさに、そのような印象を受けるのだ。

江田島は目をくわっと見開き、残った最後の妖怪のほうを向く。それは、まさに鬼というか阿修羅のような表情だ。

 江田島「さて、残るはお前だけのようだな。さて、どうしてやろうか…。ともかく、悪いもんはここから追い出さなくてはならんだろう。」

 経凛々「そうはいかん!わしは【あやつ】との約束を守る必要がある!ここでわしは負けるわけにはいかんのだ!」

経凛々は、そういい放つと、全力を込めて体中の文字という文字を江田島に向けて放ち、津波のように押し寄せさせる。

だが、なぜだかわからないが、江田島はその光景を見ても余裕の表情を浮かべている。

 江田島「なんじゃ、そんなものか!ならば、わしも少しばかり本気を出さねばなるまい!!」

江田島は、和服の裏を相手に向けて、精神を統一する。するとどうだろう、彼の和服の裏から大量の文字が火山弾の如く、相手に飛んでいくではないか。

 経凛々「な!なんじゃあれは!!」

文字が大量に書かれた経文の妖怪である経凛々でもこの瞬間、敗北を悟ることとなる。江田島の解き放った文字は、経凛々のそれよりも非常に多く、すべてを飲み込み、凌駕し、破壊しつくして行った。その光景を草葉の陰で見ていた協会のメンバーとそれ以外の人たちは、その光景に驚嘆を隠せずにいた。もちろん、この二人も同じ感想を抱いていた。

 辻谷「す…すごい。今の技は何なんだ…」

 雷電「む!あの技は【甲文返し】!まさか、塾長があの技を使うとは…」

 辻谷「知っているのか、雷電

 雷電「うむ!」

 甲文返し


平安時代の日本では、文字には不思議な力が宿っているといわれており、言霊によって人を操ったり、占いに用いられてきた。特に、亀の甲羅を用い、文字を甲羅の裏に書いて行う【甲文】はとくに効果があるといわれ、力がある陰陽師たちが用いていたといわれている。又、強力な術者の中には、複数の【甲文】を用いてさまざまな術式を行ていたものもおり、中でも【甲文返し】という技は、妖怪に対して非常に効果がある強力な技であったという。因みに、【こむら返り】という言葉は、この術を練習しているとき、多くの術者が足がつったり痙攣していたから生まれた言葉ではないかといわれている。
民明書房刊  日本の呪術大辞典より。

 スコール【…それは果たしてどうなのだろうか…】

横から聞いていた彼は素直にそのような感想を抱くが、辻谷と雷電は大まじめな顔をしていた。只、間違いなくいえることは、塾長の服の裏には確かに亀の甲羅がたくさん隠されていたということだろう。