第三章 BERSERK 9

 辻谷「そうですね。まさに、その時が来たというわけですね。司馬懿殿がおっしゃった通り、この方が300OD様がこの過渡をこちらにお呼びになさった。」

 これでこの戦いに先手を打てる。彼はそう確信した。しかし、問題点は二点ある。まず一つ目は、キーマンである【山本誠一】が行方不明であるということ。もう一つが、目の前で正気を失ったガッツをもとに戻さなくてはならないということだ。

 アタランテ「…おい!辻谷!これから折角話をしようというのに何一人で感動し他と思いきや急に考え込みおるか!」

辻谷はその言葉に驚いて後ろを振り向くと、自分を除いていつの間にか話が進んでいた。どうやら、彼のシリアスモードはここで終わってしまったようである。慌てて彼は、彼女が語る【ベルセルク】の話に耳を傾けることにした。

 ベルセルク。それは北欧神話に登場する最高神オーディン】の力を得た戦士のことである。彼は、戦闘になると、己のことをしばし忘れ、熊やオオカミといった猛獣のごとき戦い、その後虚脱状態になったという。特に、彼が忘我状態になると目の前にいるものすべてに襲い掛かり、彼の上官たちは、護衛を彼の近くに一切置かなかったという。このベルセルク、一体どうしてこのような状態になってしまうのか、詳しい話は実のところよく分からないのだが、おそらく、オーディンが神話の登場人物としては珍しい【死】を司る軍神だからではないかもしれない。

 辻谷「…確かに、俺たちの聞いた話もそんなんだったかな。そうそう、少し話が脱線するけど、このオーディンという神様、記憶に違いがなかったら【タロットカード】の【吊られた男】のモデルなんだっけ?」

どうやら、アタランテはこのことを知らなかったのか、辻谷のほうを見て少し驚いたような顔をした。

 アタランテ「ほう、私の生まれた時代にはタロットがなく、この時代に来て初めて知った故よく知らなかったが、そうなのか。」

 リヒター「ああ、確かにそうだ。オーディンは、ルーン文字という古代ゲルマンの神秘文字の秘密を知るために、【世界樹】と呼ばれる木に逆さ吊りとなって、九日九晩耐え抜いたというらしいからな。」

と、リヒターが喋り終えた瞬間である。突如、爆音が空をこだましたのだ。音がするほうを見ると、いつの間にか、相当近くまで戦っていたガッツによるものであるということがすぐに分かった。デュラハンに向け、義手に仕込んであった【大砲】を打ち込んだということが、20メートル離れたイギリス車から見てもよく分かるからだ。

 ヴァレンタイン「…なるほど、何故彼が【ベルセルク】と呼ばれるか、分かるような気がしてきた。まさに、伝説の通りの戦いぶりではないか!!」

皆は、目を凝らして正面を確認すると、彼の言葉の意味がよく分かった。どうやら、デュラハンはゾンビや骸骨の兵士を呼び出し、共に戦ったようである。肉片や、骨があたりに散らばっているからだ。

 

 そこまでの距離、辻谷たちから約30メートル離れたところである。しかも、そこから向こうは【怪物たちの亡骸】で覆われているのだ。彼はこの無数に出てくる怪物たちに囲まれ、さらに強大な敵と延々と戦い続けたということなのであろうか。

 アンデルセン「なんということだろうか。これが【ベルセルク】。…おぞましい存在であるな。見えたものは、すべて斬り伏せていったということだな。」