第三章 欲望の守護天使【ゴッドハンド】 4

 はじめは何が起こったのか、辻谷たちには理解出来なかった。気づいたときには、無数の石版がそびえ立ち、天が紫色に染まり、地は延々と続く砂漠が広がっていた。

 ガッツ『ここまで来ちまったか。まさか、人生で二度も同じようなことに出会うなんざ思ってもなかったがな。』

彼以外は、今目の前に広がっている光景を受け入れる準備が整っていなかった。

 アタランテ「一体これは…どういうことだ?何が起こっているのだ?」

 バレンタイン「分からないッ!ただ先ほどの異空間から別の異空間へ移動したということかもしれん!ただッ!今いえることはここから動いてはいけないということだッ!」

この状況でやってはいけないことは只一つ。不用意に動いてはならないということだ。辻谷一行は、アンデルセン神父が乗っていた車の近くに再び集まる。

 辻谷「確かにその通りだ。と、とにかくここから動いたら…」

但し、ガッツのみここから離れ始めるのであった。

 李「青年、あの真っ黒い剣士が向こうへ向かって歩き始めようだが?」

 辻谷「なん…だと…?」

確かに、ガッツは何かに取りつかれたように、一直線に歩いているように見えた。彼の行く先を見ると、向こうに何者かの姿が影のようにそびえているのが見えるではないか。

 辻谷『もしや、司馬懿殿が言っていた四人の守護天使が現れる場所とはここのことで、彼は今彼らのもとへ向かっているということなのか?』

彼は、アメリカへ来る途中の飛行機の中で話していた内容を再び思い出していた。それは、彼が旅へ出た理由、【ゴッドハンド】の話だ。

ゴッドハンドについては前に説明したとおりである。ガッツは、そのうちの一人、闇の鷹【フェムト】を追って旅をしている。恐らく、この空間はゴッドハンドが現れる異空間なのだろうということは、彼から放たれる復讐心からくる殺気からすぐに理解できた。そうでもなくば、ここまで気を荒立てることは無いだろうからだ。

 辻谷『だとするとまずい。司馬懿殿から話を聞いてはいるが、まず俺や山本っさんでも勝てる気がしない連中だ。しかし、何故彼らが平行世界からこちらの世界に来られるのかが疑問だ。』

今はともかく、彼の後を追うしかない。辻谷は、車の天井部分に乗っかっていた形であたりを見渡していた。そのまま下へ飛び降り、ガッツを制止するために彼のもとへ駆ける。

 リヒター「おい、辻谷君。どこへ行く気だ。」

 辻谷「大丈夫!ガッツさんを連れ戻しにいってくるだけです!すぐに戻って…」

すぐに戻ってくる。そう言い終わる前に、彼は車のもとへ戻されることになる。何故なら、突如目の前に浮かび上がった炎に吹き飛ばされてしまったからだ。