第三章 欲望の守護天使【ゴッドハンド】10

 李「一体あの神父は何を考えているのだろうな?…あまりの気迫に流石の俺も少し引いてしまったのだが。」

 辻谷「ええ、俺も少し引いてしまいました…。あの人、さっきもそうだったんですけど、敵に対して怖すぎる。」

それもその筈である。そもそも、彼はただの神父ではない。彼は、ヴァチカンに所属する特務局第13課【イスカリオテ】に所属する武装神父で、神の代行者。そして、神罰を下すために現れるという人間で、それ以外の素性はまったく不明である。その戦い方は、敵の肉片を一つも残さず殲滅させるまで、戦いをやめないという程の凄まじさを誇るという。

 しかし、その苛烈な攻撃も一切当たらない。想像以上の素早さで攻撃をかわし続ける松永を捕えることはかなり難しいのだ。

 

 李「その敵に対して恐ろしい男相手でも、薄ら笑いをするだけという敵の精神力も大した物ではあるがな。正確には、感性が狂っているとしか思えないが。」

 辻谷「ともかく、あいつをどう足止めするか。それを考えないと、先には進めそうもないことは間違い無いってことっすね。」

さて、と辻谷は敵の動きを見てどうすればいいか、思考を巡らせる。敵は一人。しかし、こちらは大苦戦というありさま。理由は只一つ、敵が接近戦と遠距離戦、両方に秀でているためだ。火薬を遠くから操り、隙あらば接近戦に持ち込む。そして、急回避で間合いを空ける戦法でこちらを惑わす。敵にこのようなことをいうのは心外だが、足止めというには八面六臂の活躍だ。ならば、ここは地形を生かすこととしよう。辻谷はそう考えた。

 だが、一つ困ったことがある。それは、自分のような剽軽者のことなぞ、普通は聞かないだろうということだ。ならば、自分の行動で分からせてあげればいい。しかも、この作戦に書文先生も乗ってくれるという。二人はそうと決まればすぐに行動を開始した。

 

 松永は、遠距離攻撃をした後、すぐにこちらの懐に飛び込む。そして、また間合いを空けて、火薬に火をつける。この瞬間、彼に隙ができる。

 アタランテ「くっ、これでは全く当たらん。一体どうすれば…、ん?」

彼女は、遠くにいた辻谷と李の動きをみて、何かに気づいた。どうやら、辻谷が積極果敢に松永の懐に入りこみ、そびえたつ石版の近くまで追いやるということを何度か繰り返しているということに気がついた。

 アタランテ「そうか、成程な。あの男、ただの阿呆ではないということか。」

彼の真意を理解した弓兵は、その一瞬の隙を狙うように、改めて弓を構えなおした。