吉良吉影は、平穏に暮らしたい3

吉良は、横須賀にある商店街に足を運んでいた。通称どぶ坂商店街と呼ばれているこの場所は、アメリカンな店が多く立ち並ぶ、日本でも珍しい商店街である。更に、平行世界であるせいだろうか。我々が住んでいる世界では存在しえない【日本海軍】の基地があるからだろうか、それを意識したような店も立ち並んでいる。

 吉良「さて、何か面白いものはないかな?ねぇ、君はどう思うかな?」

なんとおぞましきことだろうか。吉良は、爆殺した女性の手に話しかける。不思議なことに、不気味なことをしても、誰もそのことには気がつかない。これは、吉良が高い知性と、人に極力邪魔されたくないという心理的なものを合わせ持っているからであろうか。不思議と誰も気がつかないのである。それだけ、自分を隠すのがうまいのだろう。事実、彼はおのれの心の平穏さと自分のプライドを守るため、自身の家に飾ってある表彰状やトロフィーは全て【三位】である。それ以上は目立ちすぎてしまうと言う理由で、故意に手を抜いて順位を下げている。この男にとって大事なことは、自分の心の平穏である。

 吉良「そうか、黙っている君は実に素敵だよ。…このまま平穏に過ごして行けたらいいと心の底から思うよ。…残念ながら、きっちり仕事を終えるまではお預けらしいがね。」

吉良は、そうつぶやいて嘆息する。季節は夏。照りつける日差しが、道行く人々に降り注ぐ。その上、今日はこの時期としては珍しく、湿気もそう多くはない。まさに、絶好の外出日和である。吉良にとっても一応その点では同じではある。しかし、彼の真の目的は別にあった。心の平穏を保つための新しいターゲットを見つけるためだ。

 

 吉良「さて、そろそろ君ともお別れしないといけないね。…あと数日以内に美しい手の人を見つけないと、気がどうかなりそうだね。」

彼のいう心の平穏とは、実に利己的なものだ。殺人衝動を抑えるために、彼は幾度となく殺人を犯してきた。それは、自分の心の平穏のためとはいえ、人の道を完全に踏み外しているものである。だが、彼は、深い感動もなければ、どん底のような絶望もない人生のために、決してやめることは無い。