夢 その1

それは、深く、暗い深淵だった。あたりは炎で包まれ、多くの人が彷徨い、逃げ惑っている。自分は、そこから逃れるために【それ】に抵抗していた。どうしたら、ここから抜け出せるのだろうか?そのためには、只一つ。それに抗うしか無かった。しかし、自分にはそれだけの力が全くなかった。

一体どうしてこのようなことになってしまったのだろうか?全ては、自らの過ちか?自ら可能であると考え、行動した結果がこれだ。炎に映る赤い液体を見ると、己の無能さを感じるしかない。

だが、自分には責任があった。少しでも生き残りがいるのなら、自分は身を挺してそれから救わねばならない義務があった。戦い、戦い、戦い…そして、必死に抵抗した。

 ?「だが、それは無駄だった。そうではないか?お前がやったことは無意味だった。」

そうだ、結局は無駄だった。あれだけ必死にやっても、始めから全てが無駄だったのだ。そのことに何度苦しんだか、そのことにこれまで何度死にたくなったか。それ以来、自分はあらゆる努力をした、そして、遂にはこの地位にまで来ることができた。

 ?「でも、それは俺たちを踏み台に、俺たちの犠牲でこれたんじゃないのか?」

…いいや違う。と言いたかった。だが、自分は一切否定ができなかった。後ろを振り返れば、阿鼻叫喚の地獄だ。今まで自分がしてきたことは一体何だったのか?

 …どうやら、気付いたらもう朝になっていたようだ。しかし、この夢を見るのは何度目なのだろうか?あれからもう半年は経った。だが、その事件が原因で、【山本誠一】は未だに苦しみを味わうことになっているのだ。