拳を極めしもの 15

そして、ついに動き出した。そのタイミングは、全くの同時である。それは偶然とも言えるかもしれないが。二人にとっては必然のタイミングだ。何故二人は同時に仕掛けたか?それはお互い長年の経験によって培われた相手に対する殺気の感知だ。

 

戦士というものは、相手に隙を見せては行けない。そのために備わっているのが【相手の気を察知する】能力である。時に、両者の殺気は正に最大限まで高まっていたのだ。それを感じ取った二人の格闘家は自然に体が動き、相手に対して攻撃を開始したのだ。

 

先に技を出したのは、猗窩座の方であった。

 猗窩座「終式 青銀乱残光」

彼の技の中で最大の技。これがその技である。全方向に百発の乱れ打ちを放つ回避不能の絶対の技だ。少なくとも、この技を受け止めることが出来る者は人間にはいないだろう。

 

豪鬼の目の前に広がるは百の乱舞。いずれも躱すことが出来ぬ、一撃が必殺の技。が、何故であろうか、あろうことか、豪鬼はこの光景を見て何故か笑みを浮かべていた。その笑みは、この期に及んでの余裕の笑みか、それとも、相手の技を見ての【嘲笑】か。

 

猗窩座は、それに気づかず技を出し終える。その時には、豪鬼の姿は影も形もなくなっていた。