時空省外伝 辻谷広行の休暇 14

そうして、夜になった。あたりは漆黒の闇に包まれている。桜島のふもとの林には、ただただ、静寂が広がっているだけである。そんな林の中から、何やら話し声が聞こえてくる。その声の主は、ドラゴンのような頭に蝙蝠のような羽が生えている。とても人ではない容貌をしている【ギャイボン】という西洋妖怪は、【経凛々】という日本の妖怪と会話をしている。

 ギャイボン「なぁ、本当に大丈夫なのか?日本に来るのは初めてでよぉ、正直不安なのよ。」

 経凛々「案ずるな、問題はない。私についてきてもらえればすぐに終わる。」

体がお経、顔が烏の頭のようなその奇妙な妖怪は、低く落ち着いた声で西洋妖怪をなだめる。非常に落ち着いた雰囲気を醸し出す経凛々は、鹿児島のある方向を向き、にやりと笑う。

 経凛々「もうすぐだ…、この仕事がうまくいけばこの国を脱出し、【あのお方】のもとで働ける。そう、【君の主】にだ。」

 ギャイボン「あぁ。そういう約束だったな。そう、この街を恐怖のどん底に叩き落とせば…【あのお方】に会えることができるというな。心配するな、あなたならできるはずだ。日本どころか、あなたのような長生きしている妖怪はそういませんし、何より経験も豊富、これは期待できます。」

そう話していると、山のふもとのほうから何か声が聞こえたような気がしたので振り返る。

 経凛々「む?何やら声が聞こえたような気がしたが…」

 ギャイボン「あぁ、あれは私の部下の声でございましょう。おそらく、ふもとの人間どもを襲い始めたというところでしょうな。」

 経凛々「そうか、そういわれてみればそのような時間か…。では、我々も準備に取り掛かることといたしましょう。」

ギャイボンは、その言葉に合わせて出撃の準備する。しかし、ギャイボンの心中には何か不吉な予感がしていた。

 

 ギャイボン「ん?何やら胸騒ぎがしてきた…。いや、やつらがこの時代に、ましてやこんな国にいるわけがないか…。さて、

経凛々殿と行くとしましょうか…。」

 だが、ギャイボンの予感は見事的中していた!

同じころ、桜島のふもとの林ではでは、巨大なオオカミと妖怪蝙蝠、そして、ゾンビの群れが集まっていた。