第三章 黒い剣士2

夏の白い太陽のもとでいっそう黒く光るその巨大な剣は、その男にふさわしい武器だ。二つに斬り裂かれた二体の怪物を背にして、黒い剣士はその場を去ろうとする。

 蝙蝠猫「おい、まてよそこの人間!」

先ほど斬り裂かれたはずの蝙蝠猫が呼び止める。さすがは妖怪、生命力は他の生物をはるかに上回る。すぐには死なない。その呼びかけに対し、黒い剣士は「ガッツだ。俺の名はガッツ」とぶっきらぼうに返した。その態度に、蝙蝠猫は気分を害し、すぐにでもバラバラに引き裂いてやりたいという衝動にかられた。が、すぐにそれは不可能であることを同時に悟っている。

仕方がない、ここは話に乗ってやる。そうするしか今は方法がないからだ。

 蝙蝠猫「そ、そうか。ガッツさんよ!よくもこんな体にしてくれたな!」

 ガッツ「へぇ、あんた真っ二つにされてもピンピンしてんだな。」

一体この無関心さは何なのだろう。話によると、相当な人生経験を送ったらしいが、我々を見ても特に驚くことがないのだろうか。仕方ない、ここは話を合わせるしかない。

 ガッツ「…どうしたんだ?何黙りこくって?」

気づくと、大きな体をかがめてこちらを見つめている。一体この男は何を考えているのか、妖怪である彼には良くわからない。

 蝙蝠猫「なんでもねぇよ。それより、よくもこんな姿にしてくれたもんだな!」

 ガッツ「しょうがねぇじゃねぇか!襲ってきたのはてめぇのほうだろ!」

 蝙蝠猫「確かにそうだ!こちとら西洋妖怪はテメェを追ってるんだ!その首結構高くついてるんだぜ!」

そんなことを聞いてもガッツは一切興味がなさそうだ。一体どうしてこんなに無関心な顔をしていられるのかが納得いかない。

  

 ガッツ「…おまえ、俺がなんで興味なさそうな顔してるんだって考えてんだろ?それより、自分のバラバラになった体を心配しな。」

そういい放つと、彼はさっさとこの場を去ろうとする。蝙蝠猫は、怒りが抑えられずに大声で

 蝙蝠猫「テメェ!待ちやがれコラァ!」

 ガッツ「待たねぇよ。お前にとっちゃあ俺は敵かもしれねぇが、俺にとっちゃあお前は敵じゃない。正確には、斬り伏せた後に敵じゃ無くなっちまったんだがな。」

なぜだろう、そこにいた怪物は、去っていく彼を見つめたままついに何も言えなくなっていた。隣にいるモスマンの亡骸を見つめつつ、生き残った生命力の強いおのれはこれからどうするか考える。

 

 蝙蝠猫「仕方ねぇ、体が再生したらまずベアード様に連絡しなくちゃならねぇな。俺じゃ、あいつには勝てねぇ。ここは少し策を練ってからだな。」

 蝙蝠猫は、再生能力が取り柄の妖怪だ。正直に言うと、あまり戦闘はあまり得意ではない。今回は、たまたま人間が相手ということで、高をくくった結果がこれだ。噂に聞く【ベルセルク】、黒い剣士の強さは本物だ。もう人間をやめて何か別の生物になっているのではないかと思ってしまう。

どうやら、もうすぐ体も元に戻りそうだ。後は、このまま飛び去ってしまえばよい…筈だった。

 ?「ん、まさかあれは!妖怪か?だろ、陸奥、リヒター」

 ??「どうやらそうらしい。猫に翼は普通生えてないからな。」  

 ???「そうか?でもお前たちの国には【翼の生えた虎】がいるらしいじゃないか?」

そこに現れたのは、辻谷広之とその仲間【陸奥九十九】と【リヒター・ベルモンド】である。彼らは、時空省中国支部特捜本部兼東京支部特別顧問の【司馬仲達】の命を受け、アメリカまでやってきたのだ。それは、この付近に行方不明となっている山本次官がいるのではないかという情報をキャッチしたので救援に向かえということだった。だが、今のところは見つかっていないので、まずは、近くにある街【デス・シティー】という所まで移動することになったのだが、目の前にはなにやら謎の生物がいた。