第三章 黒い剣士3

  辻谷「いや、それは中国のことわざで、日本にはそんな虎いないし。」

 リヒター「そうなのか…」

 陸奥「そうです。」

…何なんだ今日は。そう思う怪物は、体が元に戻ったことなどすっかり忘れ、目の前の人間三人に気を取られていた。

 蝙蝠猫「何なんだ、お前たち?突然意味のわからんことを言い始めて?というか、人間ども、一体何しに来たんだ?」

 リヒター「妖怪であるお前にいう必要は無い…と言いたいところだが、今日は特別だ。教えてやる。この先にあるかの街に行く。確か、中々珍妙なネーミングだったことは覚えているが。」

 辻谷「あぁ、【デス・シティー】といったか。確かに強烈なネーミングだな。」

俺の生きている時代には少なくとも存在しない。辻谷は頭の中で確かめるように言い聞かせる。聞かされている蝙蝠猫も、確かその街の名前を聞いたことがあると思うのであった。

 

 陸奥「【俺が山に籠っていた間に何があったんだろうな、アメリカに。舞子ちゃんにもこの話したらどう思われるかな?】あぁ、そうだな。辻谷さん、本当にその街に向かえばいいんですよね。」

 辻谷「そう。んで、そこに向かえばそこにいる猫の怪物さんの主について何かわかることがあるはずだ。」

 蝙蝠猫は、今までの話の内容を頭の中でまとめる。…まてよ、最後あのトレンチコートを着た、背中に木刀を入れるための布をしょっている男の言った最後の言葉をもう一度リピートする。

 蝙蝠猫「…おい、お前!最後なんて言った!何故わが主のことを知っている。」 

辻谷は、怪物の顔をじっと見つめる。その顔は、すべてを見知ったような顔だ。

 

 辻谷「あぁ、かの【妖怪大統領】のことか。そいつと、もう一人の怪人についても調べに来たというわけだ。勿論、それを調べる過程でお前さんのことも調べているぜ、【蝙蝠猫】さんよ。一応、西洋妖怪の中でも知名度高いらしいな、あんた。」

怪物は何故にか不思議な気分になる。先ほどの黒い剣士といい、今日は変な日だ。今度は人間に褒められるという状況になっている。

 蝙蝠猫「お、おう。その通りよ!俺は不死身の蝙蝠猫さまだ!どれだけ切り刻まれようが、この通りもとに戻ることができるんだぜ…」

その台詞を言った瞬間、自分の体がもとに戻ったことを思い出した。

 蝙蝠猫「あっ…戻ってたのか俺の体…」

 陸奥「…そうみたいだな。」

転がっている一つの死体を除き、一瞬時が止まった。蝙蝠猫は、少しだけ考えてから一体何をすべきか思いつく。そう、それは【逃亡】である。