第三章 黒い剣士9

 ガッツ「あん?あいつはあんなところから全く動いちゃいねぇが、あれで大丈夫なのか?」

だが次の瞬間、彼の心配は吹き飛ぶこととなる。何が起こったのかは分からないが、助手席に入ろうとした骸骨たちが宙を舞い、バラバラになりながら赤い大地に砂塵をまき、そのまま粉々になっていったのだ。

 

 辻谷「残念だが、こいつがないと後々面倒なんでね。一応、見張りについていたら案の定こっちにきたか。」

いつの間にそれを取り出したのか。その美しい流線を描く木刀から繰り出される突きに、怪物たちはただ舞う運命にある。

 辻谷「さっきから外をじっと見ていたら何か嫌な予感はしていたんだ。やはりこういうことになったな。ここは安心して任せてくれ。それよりも、こいつらを操っている主を倒せ!それと、俺が読んだ助っ人がそちらに来る!雑魚にはかまうな!」

 なるほど、さっきは俺のほうを見ていたのではなく、窓の外を見ていたというわけかとなぜか納得するガッツである。しかし、あの辻谷という男、相当な眼力ではないか?どうやら、この怪物共が出てくることを予見していたらしい。彼も、かなりの手練れということなのだろうということは理解できた。ただのちゃらんぽらんというわけではないらしい。しかし、助っ人とは誰のことであろう。そんなことは後で考えるしかない。今は、その術の主というものを探すのみだ。

その頃、ここから約数キロ離れた所、辻谷が呼んだ助っ人たちが問題の場所に向かっていた。まずは、先に駆けつけた二人から紹介しよう。一人目は、20世紀初頭に活躍した八極拳と槍を極めた武術家李書文である。二人目は、ギリシャ神話に登場する弓の名手であり、野性味がありながらどこか気品を感じさせる翠緑の様相をした女性アタランテだ。二人とも、25世紀の未来で時空石によって呼び出された偉人たちである。

 李「さて、古代の女神よ、この状況は如何とする?」

 アタランテ「さぁ、我等は只あのよく分からん男に呼び出されただけだ。あたかも、人を便利屋のように使うのは少し気に食わない。…それと、私は神ではないぞ。」

 李「阿阿阿、細かいことは無しだ。それより、彼の話からして、中々の剛の者と出会えるということを聞いている。私はそれが楽しみで仕方がないのだよ。」

 二人は、そのようなことを言いながら、目標地点である【イギリス車】のもとへ向かう。生まれた時代も国もまったく違う彼らであるが、辻谷が呼びしこの二人はかなりの戦力といえよう。何故なら、二人とも人とは思えぬ脚力で荒野を走り抜けているからだ。呼び出された場所は、辻谷たちと同じであるが、おそらく彼らより5分の一の所要時間で目標地点へたどり着きそうだ。流石は、時空石に呼ばれし偉人というところであろう。そして、視力の高いアタランテが、怪物どもと戦っているその場所へたどり着くことができたようだ。

 アタランテ「どうやら、奴の言う通り、戦場と化しているようだ…。」

彼女は、弓を構えると、得意の俊足を活かして戦場を駆け巡る。二人の進行を邪魔していた怪物たちは、次々と打ち倒されていく。

 李「―どうやら、無事にたどりつけたようだな。しかし、これはなかなかの大群であるようだ。」

二人の目の前には、おびただしいまでの異様な者たちが、おぞましき妖気をあたりにまき散らしながら、恐怖というものを醸し出す。成程、これは援軍が必要というわけであるかということをすぐに感じ取った。