第三章 黒い剣士10

 アタランテ「しかし、これだけ多くの敵がおると厄介だ。ただ弓を放つだけではこの状況打開できそうにない。ならば、」

アタランテは天に向けて弓を構え、そのまま二本の矢を打ち放つ。すると、すぐさま天から無数の矢が怪物たちめがけ、雨のように降り注いだ。

 アタランテ「吾が弓、太陽と月の神へと届いたか。」

これが彼女の能力の一つ、【訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)】。太陽神アポロンと月女神アルテミスに訴状の矢を送り、敵方に災厄として弓を降らせるというものである。これは、一種の超能力というものと解釈していただければさしたる問題はない。あくまで、現在での話ではあるが。

補足ではあるが、彼女の持つ弓は、狩猟の神でもあるアルテミスから受け継いだ【天穹の弓(タウロポロス)】というもので、これにより彼女の能力が上昇している。しかし、それでも無数の怪物たちを止めるにはまだ足りない。

 アタランテ「これでは、まだ足りぬか。仕方ない、ここはもう一つ、」

再び彼女は弓を構え、天にいる二人の神に矢文を放つ準備をする。が、しかし、弓を主力の武器とするものの欠点ではあるが、足元から湧いてきた骸骨の怪物に足を救われ、転倒してしまう。

 アタランテ「しまった。足元からくるとは!」

至る所から湧いてくる、無数の怪物たち。このままでは、そのまま怪物たちに襲われ、この者たちと同様、骸と化してしまう。

 しかし、何故だか分からないが、あたりにいた怪物たちが突如ただの骨とかし、そのまま土へと帰っていったのだ。アタランテはどうしたものかと思い、あたりを見渡すと、クロスボウを構えた黒い何かがそこに立っていた。黒い剣士【ガッツ】である。

 ガッツ「おいおい、そんなところでへばってどうすんだ?ここは戦場だ。隙を見せたら、ゴミのような死が待ってるだけだ。

彼はそのようなことを言い残すと、そのままあたりにいる怪物たちを再び相手にする。彼女は、黒で覆われた彼をみると、彼の心の奥底の何かを見たような気がした。彼女は、子供にたいして慈愛をもっている。その彼女が、大柄な彼を見ると、なぜだかは分からないが、戦場の中で泣け叫ぶ子供の姿と重ねてしまった。

 

 アタランテ「あぁ、そうか。汝もそうなのであるか。」

彼女はそうつぶやくと、再び戦場に心を向ける。しかし、何故であろうか、その後の彼女の引く弓の音はいつもよりも悲しげであった。