第三章 BERSERK 10

 だが、その驚きも今のガッツには全く聞こえていないだろう。すでに彼は、古に伝わるベルセルクそのままになってしまったのだから。

   

ガッツは、敵がまだ動けることがわかると、弱り切ったウサギに襲い掛かる虎の如き行動に出た。

デュラハンは、一体これほどの強敵と出会えたのは、いつ以来になるかと、疲労困憊の状態にも関わらず歓喜していた。首が無く、目が見えぬ怪物で成り果てたものの、相手が強大な存在だということは【感覚】というもので感じ取ることが出来た。

さあ、もっと楽しませてくれ!!何故だろうか、己と互角に戦える力を持った【友】に出会えた。いつの間にだろうか、彼はそう考える以外、相手に失礼ではないかと考えるようになっていた。いや、考えるほかならざるを得なくなっていた。

巨体を起こし、デュラハンは相手に向かって一気に間合いを詰める。黒い剣士も、ほぼ同時に相手との間合いを詰めるように飛びかかり、激しい打ち合いとなった。何合、何十合と続く斬り合いの音は、武器かどうか判別するのが困難なほどすさまじいものとなり、あたりに轟音をまき散らす。

 陸奥「ありゃ並の人間じゃ近寄れないな。近寄れるのは、人間やめちまったもんだ。…ああ、二人ともやめてたか。」

そんなことをつぶやく間にも、両者は火花を散らしながら戦いをやめようとしない。目の前の敵に対し、自分がより強い存在であるか、はっきりわからせるまで続くこととなるだろう。だが、二人はそれでも戦いをやめようとするだろうか?いや、この楽しみを終わらせたくはない。少なくとも、デュラハンはそう考えていた。

 デュラハン「…いいぞ!いいぞ黒い剣士!もっとだ!もっと俺を楽しませてくれ!今までこのような高揚感を感じたことはない!そう、今の今までだ!」

今まで、敵にも味方にも蔑まされていた彼は、敵と戦う際、只憎しみだけをぶつけて戦っていた。ただ愛する家族のために、仕方なく武勇をふるっていた。それは、怪物となった後も同じだった。しかし、どういうことかは分からないが、目の前にいる人間を前にして、そのような感情は一切なかった。喜、楽、嬉、幸。思いつく言葉と言えば、只これだけである。ああ、俺はこのためだけに生まれてきたのだは無いだろうか。そうだ、彼に礼を言わなくてはいけない。こんな私に最後まで付き合ってくれて。自分はもう、動けないはずなのに、精神だけで彼の攻撃を受け止めている。まだ終わらせられない。これからだ、もっと俺を楽しませてくれ、まだ終わらせないでくれ。もう二度と、味わえない感慨に浸っていたいから。

そうして、戦いは終わった。気づいたときには、体は5つに分解され、もう二度と、立ちあがれない体になってしまった。