異世界侵攻録 8

重々しい空気が、あたりを包みこむ。アレンは、その空気に呑み込まれそうになっていた。これだけの猛攻を仕掛けても、ルガールには一切の攻撃が当たらない。それどころか、相手の攻撃ばかりがあたる一方だ。

 ルガール「はっはっはっ、噂に聞くエクソシストとはこの程度の力しかないのかね?」

ルガールは、依然として余裕の表情を浮かべている。アレンを含め、周りにいる黒の教団の面々もその決闘の様子を見て、自分たちの非力さを痛切に感じるしか他にないという悲しい状態だった。

 アレン「くそっ、一体どうしたらいいんだ!イノセンスを使っても傷一つ、着けられないなんて。」

 ルガール「まぁ、それもそうだろう。君は十五歳の少年、私は四十八の大人。経験、体のキレ、そして技の完成度。全てにおいて私のほうが上だから当然というのが私の見解だ。」

アレンは彼の年齢を聞いて驚きを隠せない。48歳という年齢にはまったく見えないその容姿と、タキシードを着たその恰好からでさえ、誰でも想像する事が出来るほどの肉体美からはとても似つかわしくない年齢だからだ。

 アレン「そんなバカな。生身の人間でこんな身体能力を持つなんて…」

 ルガール「信じがたい…というのかね?残念だが、現実だ!」

ルガールは尋ねるように言葉を返す。アレンは、ルガールの余裕の笑みを見ると、始めはいら立ちを覚えていたものの、次第に恐怖を感じるようになっていた。この心境の変化は、アレンの心の余裕が無くなってきたことの暗示でもある。当の本人も、薄々感じ取っていたが、ルガールの言葉ではっきりとそれが理解できてしまった。

 

ルガールは、更に言葉の圧力で畳みかけ始める。一言一言が、アレンにとって重いものとなっていく。

 ルガール「エクソシスト?ハッ。所詮はあの小太り男が生み出した産廃兵器を倒すだけの連中にしか過ぎんということがこれで理解できた。残念だが、君のおかげで程度が知れたよ。興が失せた。さっさと頭【こうべ】を差し出して死ぬがいい!」

当然、アレンは自分の首を差し出すわけにはいかない。今、教団にいる中で、一番責任が重いのは彼であった。自分以外の要職がついているものや、自分以外のエクソシストは今日という日に限って全員いないのだ。【これは、後々判明することになるが、全てルガールが作った偽手紙や偽の電報によるものだった。】

そんな中、この教団をみんなから任されたのは自分だけだ。この状況を何とかしなくてはいけないと頭では分かっていたが、気力がもはやなくなりかけようとしていた。