異世界侵攻録 逃亡と進行 10

 リナリー「お気遣い、ありがとうございます。あなたのことは聞いているわ。寧ろ、あなたのほうが辛い目に多くあっているはずなのに。」

 

予想外の言葉に、元就は驚いた。あんな目に合ったというのに、この娘はまっすぐやさしげな眼で自分を見つめてくる。強くて優しい子だ。元就は彼女に思わず敬意を払いたくなるくらいに心を打たれた。

 

 元就【いやいや、芯の強い子だ。心の中は不安でいっぱいだろうに。…私も見習いたいね、この精神力。】

他の三人もそうだ。きっと、彼らは多くの修羅場を乗り越えてきたのだろう。元就は、彼らの顔をもう一度見つめなおすと、違う印象をもった。その表情は、多くの経験をしたものでしか出せないものだ。この年でこの顔ができるのはそういない。たとえ、戦国の世でさえである。彼らなら、もしかすればあの強敵を打ち破れるかもしれない。不思議な話ではあるが、元就は確信を得た。

 元就「いや、そんなことは無いよ。果たして、私が君たちのころにそんな表情ができただろうか。私が幼いころなんて、大方様に甘えてばっかりだったしね。一人立ちなんて、数えで20の時だったし。」

大方様とは、杉大方のことである。元就がまだ10歳のころの話である。その年、彼の父親が酒毒で亡くなったのだが、不運なことに、元就は家臣によって領地を追いだされてしまったことがあるのだ。その時、養母である大方が彼をかわいがってくれたのだ。自分はその頃何をしていたかといえば、ただただ、太陽を拝んでいただけだった。

 元就「それに比べて、君たちは多くの困難をすでに多く経験しているとはね。感心するよ!もしかしたら、君たちの帰る場所を取り返せるかもしれない。」