朝 4
とはいっても、その彼らが現れるのはまた後程の話だ。今、ここでやらないといけないことは多くある。山本は、一汗かいたところで一旦一呼吸をした後、ここまで到達した過程の話をするための心の準備をする。
山本「…よし。そろそろだな。」
山本は、そのままホテルのロビーのある方へ向かい、それから自分が泊まっている部屋に移動する。それで終わるはずだった。山本がホテルへ戻ると、そこには先ほどの訓練の様子を見ていた大勢の見物客が彼のもとへ集まっていたのだ。あるものは称賛し、あるものは感嘆し、あるものは感激していた。
山本【しまった。ちょっとやりすぎたか。】
本人のレベルからすれば、先ほどの訓練はあまり力を入れていなかったのだが、彼以外からすればそれは大道芸に等しいものである。しかも、ギャラリーが思いのほか集まったため、それを口火にわずかな時間で数十人も集まっていたようなのだ。そんな大人数に取り囲まれている様子をわずかに遠くから眺めている上に、その様子を小型カメラで撮りまくる男がいた。辻谷広行その人である。
辻谷「さて、これをデジタル新聞各社におくってと。これで、明日のトップニュースは間違いなしだな。…てなわけで、先ほど緊急で頼まれた仕事は終わりだな。…てか、そんなことをして本当にしていいのか俺としては分からないが。」
辻谷は、そんなことを言いながらも、しっかりと写真を撮りまくっていた。…なんだかんだ言いながらノリノリでやってしまう。それが辻谷広行という男なのだ。
辻谷「でもよ、こりゃどうすればいいのか。これからモッさんをどうにかこうにかして連れ出さないとまずいんだよねぇ~。」
これは困る。このままだと、山本はあの黒山の人だかりから出られそうにない。どうにかして彼を連れ出そうと考え始めようとしたときに、突如その群衆を分け入って入ってくる二人組の男女が入ってきた。