序章-1 錬金術の世界

 果たして汽車に乗ってからどのくらい経っただろうか。確かにこの世界の、この国へ来るための[次元の狭間]は首都から遠く離れた[リゼンブール]という場所にしかないということは前々からわかってはいたし、時空省の隠れ拠点がそこであるから仕方ないといえば仕方がないことだ。

 そういえば自己紹介がまだでした。私の名は{山本 誠一}という。人からは、しばしば平凡な名前であるとよく言われてしまうが、自分自身ではそんなに気にしてはいない。

そうそう、私の仕事内容について説明したいところだが、私の相棒{辻谷 広行}{つじや ひろゆき}クンが何か話したがっているようなので後程説明しよう。

 辻谷「はぁ~、あれからだいぶ時間がったみたいだけどまぁ~だ着かないのか。」

 山本「まぁ、しょうがないっちゃ、しょうがないけどね。このアメストリス国の首都{セントラル}から我々が降り立ったリゼンブールまでは距離がかなりあるからね。それに、俺がこの汽車に乗ったのは、もう一つ理由があるからさ。」

 辻谷「あぁ、確かあの有名な{鋼の錬金術師}さんが乗ってるんだったかな?」

私は中指と親指をぱちんとならし、軽くうなずいて「その通り」と答えた。

鋼の錬金術師。もしかするとすでに知っている人もいるかもしれないが、知らない人がいるかもしれないので、私の手元の資料から説明しておこう。

 鋼の錬金術師。本名{エドワード・エルリック}という。最年少でこの国の{国家錬金術師}に選出されたという人物である。私が持っている手元の資料によると、現在は彼の弟である{アルフォンス}

と旅がを続けているようだ。理由は、失った右腕と左足を元に戻すためである。それらは現在この世界の技術である機械鎧オートメイル}という義手、義足で補っている。

これが{鋼の錬金術師}と呼ばれる理由らしい。身体的特徴は、小柄で金髪金目、そして赤いコートを着ているということである。

そう説明している間に、汽車はあと1時間ほどで首都につくというあたりまで来たようだ。 

 山本「どうやら、あと一時間で着くみたいだ。資料をまとめないといけないな。」

辻谷「そうだな。まったく、25世紀みたいにコンピューターは緊急時以外使えないからなぁ。こう、紙の資料が多いと面倒くさいっ。」

そういうと辻谷クンは面倒くさそうな顔をして席に横にたわり、資料を分類し始めた。私もばらばらに散らばった状態になっている資料をまとめるのだった。

横たわる、とはいうものの、二人とも身長180センチメートルを超えており、正確にはもたれかかるといった状況になっている。

しばらく二人とも何もしたくない、という状況なので、今のうちに私たちの仕事内容を説明しよう。

私と彼は、25世紀から来た時空省日本支部の職員である。具体的には、過去や未来、パラレルワールドといった世界に異変がないかを調査している。世界中に支部があるが、日本はその中でも

二番目に大きい部類になる。さて、今回私たちが住んでいる世界とは違う錬金術の世界に来た理由は、この国の中枢にいる人たちに、とある危機を知らせるためだ。

辻谷「んで、その危機ってのが、別次元からやってくる{奴}を撃退することが目標というわけか。」

山本「その通り!そこで、我々のほかに助っ人をよんできたんだけど、確か別の車両に乗っているはず。」

辻谷「わかった、ちょっとどんな人か見てきていいかな?」

辻谷は、大きな体を起こし、その人物に会いに行くこととした。

一方、私も鋼の錬金術師に会いに行くことにするのであった。

ここからは、一旦辻谷クン目線で物語が進んでいくので注意していただきたい。

辻谷クンは、その男らしき人物を見た。

辻谷「さてさて、どげな人ば思うて見に来たばってんが…、まさか、あの人か?」

彼の視線の先には、一人の男が女性に口説いている。

 ?「御嬢さん。ぜひこの俺と月夜で愛を語りつくさないかい?」

しかし!男はなぐられた。

 ?「あいてて…、世の女性たちは手厳しいぜ。だが、俺は世の女性の味方だぜ。…おっと、誰か来たみたいだな。」

そういうと、男は俺のほうを見て、こちらに歩いてきた。

 

? 「あんたが俺の雇い主ってわけかい。うーむ、中々いい面しているンじゃない?まっ、俺と比べたらまだまだだけどな」

いきなり何を言い出すのかと俺は思ったが、噂道理の人物だったので彼は軽く受け流した。

 辻谷「あなたが雑賀孫一さんですね。しかし、あなたのような人にあえるとは。職業柄ではありますが、光栄です。」

そう、この人こそが、日本における戦国時代、織田信長を苦しめたといわれている紀伊の傭兵集団、{雑賀衆}の頭領、雑賀孫一である。

しかしまぁ、確かに噂通りの人物だ。なんだか軽い人物だとは聞いていたが、なるほどこういう人物だったのか。等と考えている間に、彼は元の席に座っていた。

 孫一「まぁ、そんな固いこと言わずに隣に座ってかまわないぜ。いろいろ聞きたいこともある。」

孫一は彼を手招きし、隣の席に座るよう催促した。俺は彼の隣に座ると、さっそく今回の仕事内容について話し始めた。

 孫一「まず最初に聞きたいことがあるんだが、なんで俺を雇ったのかもう一度確認したいんだがかまわねぇか?」

辻谷「えぇ、今一度確認しましょう。今回わざわざあなたを呼んだのは、時空法第25条にのっとり、この時代に来ても問題ない人物を適性判断し、且つ護衛にふさわしいのが雑賀孫一さん、あなただったことです。」

 孫一「それについてはさっき聞いたぜ。ちょうど曹操さんとこの仕事を終わらせて手が空いていたから話に乗っかったってことは話したよな。」

 辻谷「そうでしたね。それでは、本題に入りましょう。表向きは、大総統閣下に書状を届けることですが、本当の目的は別にあります。何せ、機密事項ですのでこの場で話すのがよいかと。」

 孫一「ん?それならもっと前に話してもよかったんじゃないのか。」

彼は首を横に振り、話を続けた。

 辻谷「いえ、逆にこの季節のこの汽車のほうが人があまりいませんので都合がいいんですよ。未来だと盗聴の恐れがありますし、この時代ならまだ情報通信システムもそんなに発達はしていませんので話が漏れることもないでしょうし。」

孫一は納得した表情で俺のほうを見た。彼は二、三度頷いて話を続けた。

 孫一「なるほど、確かに俺があんたらと待ち合わせたのは時空省とかいうとこの外だったからな。納得したぜ。んじゃ、真の目的とやらを見せてくんないかな。」

彼は、「わかりました。」と返事をし、自分のカバンから孫一さんにある書類を見せた。

 孫一「おう、これが今回の真の目的というわけか。」

辻谷「はい。それは、あなたと同じ時代の…とはいうものの平行世界の人物ですが、この松永久秀を捕まえるためというのが真の目的です。」

俺がそういうと孫一は片手で顔を抑えていかにも厄介なことを引き受けたという表情をした。

 孫一「へぇ、あいつ別の世界にも居やがるのか。面倒ぇ話だなそいつは。」

 辻谷「確かに面倒な話です。しかもこっちのほうが、あなたの世界の人よりも厄介かもしれませんが、その分報酬は弾みます。」

そういうと俺は孫一に今回の仕事の成功報酬を見せた。さっきまでのめんどくさいと言わんばかりの表情から一転、額面を真剣に見て、「まぁ、悪くはねぇな」

と返事をしてくれた。

ここで再び私、山本に戻る。

私は鋼の錬金術師に会うために、私たちが乗っている車両より前の車両に移動をした。間違いなく、エドワード・エルリックとその弟、アルフォンスで間違いない。弟のアルフォンスは大きな鎧姿なので彼を探すようにすればすぐに見つかった。

私は素知らぬ顔をして山本「もしかして、あなたは鋼の錬金術師さんでしょうか。」などとかるい挨拶をした。初めて会う人がどんな人か確認するためには、こうした方法が一番だと私は考えているからだ。エドワードは、何やら本を読んでいる用である。

私が再び話しかけようとすると。

 ??「あっ、すみません。兄はいま本に集中しているので話しかけてもたぶん聞こえてないと思います。」

と、隣に座っている巨大な鎧を着た人が話しかけてきた。弟のアルフォンスである。大きな体をしている割には声が非常にかわいらしく、まだあどけなさを残した雰囲気である。

何故鎧を着ているかは後にでてくるのでここでは割愛しよう。確か、兄とは1歳違いであるはずなので、まだ14・5歳ということを考えれば妥当ともいえるが、何とも不思議な感じがするものだ。

兄のほうは集中しきっているから仕方ないと思い、私は弟君と話をするということにした。

 山本「こりゃ失礼。この汽車にかのエルリック兄弟が乗っていると伺ったもんで、ちょっとお話でもと思いまして。」

アルフォンス「ぼくなら構いませんよ。良ければ向かい合っている席に座ってください。」

 山本「それはありがたい。それでは、座らせていただきましょう。いやぁ~しかしエルリック兄弟に会えるとは思っていませんでしたよ。」

このセリフ、一応嘘になるが、これも話のテクニックだ。ただし、折角だからというのは本当ではある。

私は、「もう少しでセントラルですね」という風に話を弟君に振ると、「そうですね、あと20分といったところでしょうか。」と返してくれた。

 弟君は、私に自分たちが旅してきたことについていろいろ話してくれたおかげで、すぐに彼とは仲良くなれた。彼が優しそうな子であるというのも思うが。

彼は、兄が国家錬金術師になったときのこと、旅で得た経験等、短い間にたくさん聞くことができた。そして、弟君は私にこんな質問をしてきた。

 アルフォンス「そういえば、ヤマモトって、珍しい名前ですね。もしかして、あなたは{シン}という国から来たんじゃないかなぁとさっきから気になっていたのですが。」

 山本「いや、それが違うんだ。そのシンという国の更に東の島国出身なんだ。自然豊かで中々いいところだよ。それに、ヤマモトは苗字なんだ。苗字と名前がこの国と逆になっているのさ。

ところで、どうしてそんな質問をしたんだい。」

 アルフォンス「はい、僕たちの知り合いに{シン}からきた友人がいるので。」

私は軽く頷きながら、資料にそのようなことが書いてあったことを思い出した。たしか、シン国の王子だったはずだ

アルフォンスは続けておそらく彼が一番私たちに聞きたかったことを質問した。

 アルフォンス「皆さんは一体この国に何をしに来たのか聞いてませんでした。

 山本「それは…」と私が口を開こうとしたその瞬間、その事件は起こるのであった。

これが、{ジェノバ事件}と呼ばれる一連の事象の始まりなのであった。