第一章 さまよえる者たち

辺りは漆黒の闇だ… 何も見えない、自分がどこにいるのかすらもわからない。ただ、金属の音が聞こえる。そう、それは刀だ。私の体はその刀に刻み込まれている。八刀一閃、私は避けきれずもせず、ただただ喰らうだけだ。

?「お前のもっとも大切なものはなんだ?」

 自分の体をずたずたにしたその男は私に問う。私はあまりの痛みにこたえることができない。男は続けて私に、

?「それを奪う喜びをくれないか」

 と囁きながら、その長刀を私に向かって振りぬいた。

山本「!!」

夢か…。いまだにあの時から私は立ち直っていないというわけか。布団から飛び起きた私は、枕元に置いてある目覚まし時計を見る。現在午前6時。まだ起きるには早い時間だ。とはいえ、二度寝するには半端な時間ではあるが…

などと考え事をしていると、背後から私の頬をぷにぷにしだす人がいる。私の『嫁』だ。名前は香織というのだが、日事情にかわいい人だ。

香織「これい!な~んかうなされてるみたいだから心配だったけど、その表情なら大丈夫そうね。」

 やはり私はうなされていたようだ。横を振りむくと、いつもの元気溌剌な様子で私はほっとする。

山本「いやぁ、どうやら心配かけたようだね。メンゴメンゴ。」

などと冗談をかます私にほっとしたようだ。

香織「もうっ、心配させるんだから。とはいえ、安心した!今日の『試合』前に変な顔じゃ~心配だからね。それじゃっ

せっかく起きたんだから朝食にしましょ~。

 そうして、2人は朝を迎える。台所に向かってテレビを見ると、ニュースで昨日のプロ野球のハイライトが放送されている。

ニュースキャスター「さて、5月も半ばに入り、今シーズン早くも6勝を上げている『山本香織投手』、昨日の試合でも140キロ台半ばののストレートと多彩なで相手打者を翻弄!千葉に勝利をもたらしました!」

しかし、私は彼女に対して本当に感心する。結構華奢にみえるのに、身長172センチから繰り出される『ジャイロボール』と多彩な変化球で打者を惑わしている。ごつい男が集まるプロ野球という世界で、数少ない女性選手ながら、エース級の活躍をしているのは凄いとしかない。

そんな私も、時空省の次官ということで、一応名は知られてはいる。朝食を平らげ、支度をする。その前に、今日の仕事内容をチェックするため、コンピューターのメール入れを調べる。この時代のコンピューターは、薄型テレビに内蔵されていて、人間がコンピューターに話しかければすぐ反応してくれる。メールも然りだ。ちなみに今回の内容はこんな感じだ。

山本「何々…、今日はロシア支部からお客人がまみえるのでよろしく頼む。『時空省長官』。それと、先日の時空乱流で3名ほどこの時代に迷い込んだ。それで、この方々の世話をよろしく頼む、『宇和島光』か、あのねぇちゃん、そろそろ自分できちんとやっちゃあくれんかねぇ。」

 とはいえ、そんなことをぼやいても仕方はない。私は車を自宅から30分程かかる時空省本部へと向かう準備をする。

出かける前に、玄関で香織が私に声をかける。

香織「んじゃ、今日私は試合出ないけど、『ファン感謝デー』があるから

ここで、簡単に時空省について、説明をしよう。時空省はそもそも、22世紀前半に作られた国連機関、『時空管理機関』が始まりといわれている。皆さんご存知、ど〇エモンよりもう少し後の時代に作られたといえばわかりやすいかな?

 作られた理由は簡単にいうと三つあるので話をしよう。この時代から、時空乱流が頻繁に起こるようになり、安全に時空旅行をすることができなくなったというのがまず一つ。次に、『パラレルワールド』の発見が二つ目だ。今まで空想と思われていた世界の発見は、世界に衝撃を与えた。これを監視するという目的が二つ目、そして、三つ目は…時空省についたら説明した方がいいかも知れないので、ここでは飛ばしておこう。

 車を走らせてからちょうど30分後、東京都新橋にある『国際時空機関 日本時空省』に到着した。現在朝八時ぐらい、いつもより30分早い出勤だ。大体始業10時くらいなので、まだ暇だ。ただし、ここの宿泊施設に住んでいる約2名を除いての話ではあるが。その一人がこちらに向かって歩いてくる。ちょうど、こちらに向かって歩いてくるようだ。

 ?「やぁ、君がこの時間に来るなんて。いつもちょっと早いんじゃないかな?」

その一人は、毛利元就室長だ。いつものように穏やかな雰囲気を醸し出している室長は、私に対してもフランクだ。

 元就「どうだい?先日の事件から何か進展はなかったかな?」

 山本「それが…なにも進展がないどころか、あいつらの足取りもいまだつかめてないんですよ。それと、ブラッドレイ大総統から許可をもらって、エルリック兄弟にも手伝ってもらってはいるのですが、やはりこちらも手掛かりなしだそうです。」

 元就「そうかい。あれから2週間は立つけど、そう簡単にはいかないというわけだね。私も息子の『隆景』に調査させてるけど、少なくとも『あの世界』にいることはないようだね…」

 ここで、室長の言う『あの世界』とは、魔王により、中国の三国時代と日本の戦国時代が合わさっているという『トンデモ』世界のことだ。詳しいことは、インターネットで調べてみるといいかも。

 私も、室長に対して質問をする。それは、先ほど話した、時空機関設置の理由でもある『とある石』についての話だ。

山本「それでは、あの『時空石』の変化には問題はないですか?」

 時空石『じくうせき』それは、22世紀後半に入り発見されたものである。


時は22世紀も終わりのころ━

日本の新橋 アメリカのフィラデルフィア ヨーロッパ・フランスのパリ アフリカ・エジプトのカイロ そして、中央アジア イランのテヘランで見つかった謎の石 というよりは虹色の岩である。  

 私たちが、子供のころに習った歴史の授業では、こう習う。

時空石がすべて発見されると、『20世紀以前の歴史上の人物が召喚される』という奇妙な現象が起こった。この時空石は、私たちの時代に亡くなった過去の人々を現代にいくらかよみがえらせる石である。召喚された偉人たちは、私たちの生活に溶け込んでおり、知恵を授けてくれるありがたい存在で、悪人は召喚されない。30年に一度、全員ではないが、入れ替わりで召喚され、今まで世界中に『300』という偉人をよみがえらせてくれた。偉人たちは、断続的によみがえったり、よみがえってから一度も入れ替わったことのない方もいる。

 そして、この時空石は、『パラレルワールド』との関係に切っても切れないものでもある。時空省の直轄組織は、この石のそばに建造されている所からもわかる。世界中に支部はあるものの、行政府の省庁としてあるのは上記の五か国の身である


 という、信じられない話だが、本当の話なのだ。例外として、ここにいる元就室長は、パラレルワールドの人間ということで別の扱いを受けているので違う話となるが。