第三章 黒い剣士12

 そうして、物語は再び1890年のアメリカに話は戻ることとなる。一人の男前に現れた黒い穴の向こうからやってくる、同じように全身黒の甲冑で覆われたその男。ファニー・ヴァレンタインの目の前に彼が現れたことで、まず一つ目の物語が動き出すこととなる。

 ガッツ「さて、目的の人【ヤツ】にあえたぜ。これで、全てが動き始めるってわけだ。」

ヴァレンタインはいったいその言葉にどんな言葉があるのか、はじめは分からなかった。しかし、正面の男は自分を見知ったかのようにそうつぶやいたのだ。

 ヴァレンタイン「何だ君は?何やら私のことを見知っているようだが、一体先ほどの事件といいどうなっているんだ?」

 ガッツ「まぁそう慌てなさんな。俺はあんたを助けに来ただけだ。それだけじゃなく、少し手を貸してほしいってのもあるんだけどよ。」

ガッツは、この時代へ来る前の、謎の声について、噛みしめるように思い出していた。

 ガッツ「―あ?なんだ、願い事って?」

 300OD「お前さんはこの黒い穴をくぐった先に、一人の男がおる。彼の力を使わねば、この怪物どもの術者を倒すことなぞ一切不可能なのだ。簡単に説明するならば、その者は自分の生きている世界と少し似た世界に移動できるという特異体質でな、それを使えば術の主に出会えるということだ。」

 

 幕間編でも説明した彼、スリーハウンドレッドオーダーと呼ばれる彼は、手に持つ黒い錫杖を黒い穴のほうへ向けて指す。

 300OD「お主にも感じておるだろう。あれから漂ってくる何かを。それが、すべての元凶だ。」

ガッツは、首の後ろに右の手のひらを触れる。そこから感じ取れるのは、赤く、生暖かいとめどなく流れていく液体だ。成程、これは運命というやつか。この烙印が血を流すということは、つまり、自分が復讐する相手達に他ならないのだ。彼の顔は、狂気に満ち溢れた笑顔となっていた。

  ガッツ「ほう、あんたが俺に願い事した理由が少しわかったぜ。やってやろうじゃねぇか!とっととそいつを潰して、久しぶりにのんびりさせてもらおうか!」

そうして、ガッツは時を超え、過去のこの国の長に出会うこととなった。この不毛な戦いを終わらせるためである。

 ヴァレンタイン「…成程、その話を聞くと、少し不可解な点はあるが、この黒い穴は時空の裂け目であるということか。しかし、私の能力よりも優れた力を持っているものがいるか。」

ガッツによりすべてを聞いた彼は、一応理解してくれるだろうというような感じでそう話しかけた。ここでいう理解とは、自分の能力【D4C】についてのことである。

 ガッツ「あんたの能力も十分にすごいんだが、こいつを使えるのは確かにすげぇかもな。…そいつはさておき、平行世界のあんたの誰かが【元凶】を見たことがあるんじゃねぇかってことだ。」