5章 冬木にて 1

何も見えない…。あたり一面は暗闇しか見えない。

 ?「…きて。…起きて…」

その暗闇から声がする。いったい誰だろうか、どこかで聞いた覚えのある懐かしきその囁き。

 ?「…さんよ。そろそろ時間だぜ。…に行くんだろ…?さて、どんな場所か、楽しみにしてただろ?あそこにゃ、俺たちが想像もしていないモノがあるって言ってたじゃないか?さあ、早く起きろよ。さぁ、目を開けて。」

他にも、自分を呼ぶ声がする。そうだ、起きなくてはならない。そうしなくては、恐らく自分は何も出来ずに終わってしまう。

 ?「さぁ、目を開けて。」

 ?「そう。目を開けて…そうすれば…」

こうして、私は薄らと目を開け始める。そうだ、この先には、この先には!

 ?「お前を絶望へと突き落とす、地獄しかないのにか?」

この時、彼は本当の意味で目を覚ますことが出来た。悪夢から目覚め、山本は勢い良く上半身を起こした。と同時に、何かが自分の額にぶち当たるのを感じた。

 ?「いてええぇぇぇぇぇえええ!!!!!」

何やら素っ頓狂な声が聞こえてきた。どうやら、飛び起きた瞬間、誰かの額に自分の頭を当てたということにやっと気づいたのだった。山本は、その声に聞き覚えがあった。慌てて声がしたほうを見ると、そこにいたのは、自分がよく知っている人物ではないか。

 山本「あれ、うん?って、あ、兄貴!大丈夫ですか!」

山本が兄貴と呼んだ男性、【ここでは便宜上ランサーとよぼう】は頭を抱えてうずくまっている。…どうやら、そうとう痛そうだ。

 ランサー「あ~効いたぜ。俺のゲイ・ボルグ並に効いたぜ。…っと、どうやら大丈夫そうだな。こりゃあ良かった。はぁ~一時はどうなるかと思ったぜ。海についたらお前さん、クラゲみたいに海に浮かんでたんだぜ。意識もねぇしよ。…ま、無事そうで何よりだぜ、セイイチのあんちゃん。」

彼は、先ほどの頭痛はどこへ行ったのかと言わんばかりの笑顔を見せてくれた。