拳を極めしもの 1

その島は、日本のどこかにあることは間違いはないのだが、誰もその場所に近寄らないため、はたからは無人島のように思える。しかし、時折その島からは鬼の唸り声のようなものが聞こえるという。その島の名を、獄門島という。勿論、彼の住まう世界には鬼なぞ存在はしている筈もない。が、確かにその島には人が間違いなく、ただ一人そこに暮らしていた。

 

 その見た目は、やや黒に近い紫色の胴着を着ており、赤い髪の毛を束ねて髷にし、そして、足には草履をはいており、その顔は、まるで鬼のような顔つきで、眼光は非常に鋭い。そして、彼はいまその島の洞窟内にある、大きな岩の上で日課の鍛錬である瞑想をしていた。

 

長らく続く静寂。しかし、彼は僅かながら何かを感じ取っていた。

 ?「ぬん?…これは。」

彼の住みかとしている洞穴のそのまた奥のほうから何かを感じ取る。この島には何もない、しいて言うなら己が住みかとして暮らしているというくらいである。そのまま、奥へ奥へと進んでいると、それはあった。それは、この世にあるものではないというのは間違いなかろうということだけはすぐさま理解できた。空間に裂けめが出来るなぞ、ありえない光景が彼の目に映りこむ。