拳を極めし者 22

猗窩座はすぐに後ろに下がったため、傷を負うことはなかった。勿論、避けずとも死ぬことはないので、炎を無視してでも銀河に拳打を浴びせることも出来た筈。なのにだ、猗窩座の体はあろうことか後ずさりしたのだ。

 

 猗窩座【どういうことだ?俺はなぜ後ろに下がったというのだ?あの術に驚いただけか?いや、それだけじゃあない。なんだあの男、あれはまるで無惨様の、いや、もしや?】

彼は、何百年と幾度もの闘いを経験して、相手の強さは肌でわかる。が、今目の前に立っている者は、初めて経験する強さの持ち主なのだ。いったいこれはどういう感情なのか?ただただ、湧き上がってくるものは、畏敬、畏怖といった超自然的な何かと対峙したものに近かった。そう、目の前に立つは、この宇宙の理なのだ。猗窩座はそう悟ってしまったのだ。

 

普通なら、ここで無惨が猗窩座の思考を読み取り、彼に対し何かしらの命令を下すはずなのだが、その無惨ですら那由多銀河の前に何も思考できなくなっていたのだ。

 

 無惨「やめておけ。それは我々が恐れる太陽のようなもの。逆らうことはできないのだ。」

 

信じられない言葉が無惨から飛び出した。あの無惨様からそのようなお言葉が出るなんて、いったいどうしたことなのだろうか。次第に、猗窩座も何も思考できなくなり、動けなくなってしまった。